(三重県尾鷲市において実践している津波防災に関する研究活動を紹介します)
災害総合シナリオ・シミュレータを用いた犠牲者ゼロ・シナリオの検討
シミュレータを用いて、様々な状況を再現し、尾鷲市における津波犠牲者をゼロにするための条件を検討しています
災害総合シナリオ・シミュレータを用いて、津波避難の課題を把握

本研究室で独自に開発している災害総合シナリオ・シミュレータを用いることで、災害発生時の様々な状況を再現し、そのもとで地域にどのような被害が生じ得るのかを把握することができます。そして、様々な対策を実施した場合の被害軽減効果を把握することも可能です。

このようなシミュレータの機能を活用して、尾鷲市では様々な状況や施策の導入効果を把握し、津波犠牲者ゼロに向けた対応策を検討しています。

避難開始タイミングの違いによる被害軽減効果の把握
津波からの避難は、とにかく早く高いところに避難することが求められます。そこで、避難開始タイミングの違いによってどの程度被害の大きさが異なるのかをシミュレータを用いて把握しました。
検討シナリオ

ここでは、過去の津波警報発表時における住民の避難開始タイミングを参考にして

(1)地震発生後、津波警報や避難勧告などの情報を取得して20分後に避難を開始する、というシナリオを現状再現として、そこから、避難の準備を早くして(2)情報を取得して10分後に避難を開始した場合、そして、(3)情報を取得してすぐに避難を開始した場合と、避難開始タイミングを早めていった場合の被害経験効果について試算しました。しかし、情報を取得してすぐに避難を開始したとしても、犠牲者はゼロにすることができませんでした。そこで、情報を待たずに、(4)地震発生5分後に避難を開始した場合を試算した結果、シミュレーション上では犠牲者をゼロにすることができました。

この計算結果を踏まえ、尾鷲市では、

【「津波は、逃げるが勝ち!」揺れてから、5分で逃げれば犠牲者ゼロ!】をスローガンに掲げ、津波避難促進策を実施しています。

アニメーション
       
(1) 地震発生後、情報を取得して20分後に避難を開始(2) 地震発生後、情報を取得して10分後に避難を開始
       
(3) 地震発生後、情報を取得してすぐに避難を開始(4) 地震発生後、5分で避難を開始(情報を待たない)
計算条件

このシミュレーションは、以下の条件で計算を行っています。

・中央防災会議想定の東南海・南海連動型地震が発生します。

・地震発生から3分後に屋外拡声器と広報車による情報伝達、5分後にマスメディアからの情報伝達が行われます。

・各住民は、自宅からもっとも近い避難場所または高台に避難します。

地震発生時刻の違いによる犠牲者数の把握
検討シナリオ
地震は、いつ発生するかわかりません。そして、地震発生時刻によって、被害のあり様が異なることは言うまでもありません。そこで、本研究室では、24時間の各個人の動きを簡易的に表現するモデルを構築し、それを用いて、地震発生時刻の違いによる犠牲者数の把握を試みました。その結果、尾鷲市市街地においては、夜間よりも日中に地震が発生した場合の方が、犠牲者数が多くなる可能性が示唆されました。これは、日中、他の地域から市街地に来ている住民が多いためと考えられます。
アニメーション
地震発生時刻毎のシミュレーション結果のアニメーション
       
2:00 に地震が発生した場合5:00 に地震が発生した場合
       
8:00 に地震が発生した場合11:00 に地震が発生した場合
       
14:00 に地震が発生した場合17:00 に地震が発生した場合
       
20:00 に地震が発生した場合23:00 に地震が発生した場合
防災教育効果の把握
検討シナリオ
避難を開始するタイミングやきっかけについては、個々の住民でそれぞれ異なります。また、それらを適切な行動に導くためには、防災教育が有効であることも知られています。そこで、本研究室では、津波避難意思決定モデルを構築し、それを用いて、住民の意識を変えること(防災教育の実施)により、どの程度の被害軽減効果が期待できるのかを試算しました。なお、ここで改善を図ったのは、『正常化の偏見』と『平時の津波による身の危険度意識』についてです。
アニメーション
防災教育の実施効果のシミュレーション結果のアニメーション
       
(1) 現在の状態(2) 『正常化の偏見度』を改善した場合
       
(3) 『平時の津波による身の危険度意識』を改善した場合(4) 『正常化の偏見度』と『平時の津波による身の危険度意識』
の両方を改善した場合
耐震対策の実施効果の把握
検討シナリオ
津波襲来時には、大きな揺れを伴う地震の発生が想定されています。そのため、耐震対策が十分でない場合には、地震の揺れで家屋倒壊や道路閉塞が生じてしまい、その後の津波避難を阻害する要因となり得ます。そこで、本研究室では、地震動による家屋倒壊や道路閉塞を表現する構築し、それを用いて、耐震対策の実施により、どの程度の被害軽減効果が期待できるのかを試算しました。
アニメーション
耐震対策の実施効果のシミュレーション結果のアニメーション
       
現状の耐震化状況を再現した場合耐震化されていない建物の50%を耐震化した場合
       
全ての建物を耐震化した場合家屋倒壊を発生させない場合