(群馬県板倉町、埼玉県加須市(旧北川辺町)などの利根川・渡良瀬川合流地域において実践している水害避難に関する研究活動を紹介します)
埼玉県加須市北川辺地区におけるシミュレータを活用した洪水災害に対する地域防災力向上への取り組み
概要

旧北川辺町は、利根川と渡良瀬川の合流地点に位置しており、昭和22年のカスリーン台風では、渡良瀬川の決壊により旧町一帯が長期間に渡り浸水する深刻な洪水被害を受けた地域です。

この取り組みでは、住民を対象とした洪水避難に関する意識調査をもとに避難行動の再現シミュレーションを実施し、住民意識の問題点について把握しました。また、住民の対応行動などが改善されることにより、どのように人的被害が低減するのかシミュレータによる分析を行っています。そして、これらの結果を用いながら、現状意識の問題点と洪水時における適切な対応行動の重要性について地域住民に対して説明しました。

   
シミュレータを利用した北川辺町(当時)での防災講演会の様子

シミュレータによるシナリオ分析
取り組みの中で用いたシミュレーションシナリオを示します。本取り組みでは、住民調査から把握された現状の再現シナリオをはじめとして、住民の対応行動などが改善されていく次のようなシミュレーションを用いました。
                                                               
No.シミュレーションによる表現内容
シナリオ0現状の避難意向に基づく避難が行われたら…
(避難率の改善)
シナリオ1避難勧告を取得した人が全員避難したら…
(避難開始タイミングの改善)
シナリオ2避難の準備を30分で実施したら…
(避難先の改善)
シナリオ3健常者は全員スーパー堤防へ避難したら…
(災害時要援護者の避難支援)
シナリオ4災害時要援護者への避難支援が行われたら…
(共助の活発化)
シナリオ5活発な近所への声かけが行われたら…
(情報伝達タイミングの改善)
シナリオ6もう1時間早く避難勧告が発令されたら…
 
シナリオ7もし、自動車による避難を許容したら…

まずはじめに、シナリオ0では、洪水時の避難行動に関する住民の現状の意識を再現したシミュレーションを実施します。周囲の状況に応じた避難の意思決定、避難の準備時間、避難先などについて住民への意向調査の結果を反映しています。ただし、避難手段は徒歩に設定しています。
     
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現状の意識のままの場合、多くの人が避難していない状態で被害にあってしまうことがわかります。
それでは避難率が改善された場合は、どうなるのでしょうか。シナリオ1では、避難勧告を聞いた時点で全ての人が避難を決意する状況を表現しました。
     
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避難率の改善によって大幅に要酔う救助者が減少しました。しかし、依然として1,000人を超える人が被害に遭っています。

要救助者の構成を見ると、多くの人が避難を実施したにもかかわらず、避難場所にたどり着く途中で被害に遭ってしまっていることがわかります。

それでは、さらに避難を開始するタイミングを早めたらどうでしょうか。シナリオ2では、避難準備時間を現状再現から30分に改善しました。
     
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要救助者は300人程度減少しましたが、まだ避難中に被害に遭っている人が要救助者の半数を占めています。避難施設の収容状況を見ると、学校に多くの避難者が集まることによって容量超過となり、避難施設に入ることができず避難が遅れている人が存在することがわかりました。
シナリオ3では、これまでの条件に加えて、旧北川辺町の避難計画に則り、一般世帯はスーパー堤防上の避難場所へ避難させることとしました。学校等の施設へ避難は、高齢者や未就学児を持つ災害弱者世帯に限定しています。
     
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シナリオ3のシミュレーションでは、455人にまで要救助者が減少しました。

要救助者の多くは、自力で避難することができない災害時要援護者で占められています。

シナリオ4では、災害時用援護者への対応が実施された状況を表現してみましょう。災害時要援護者は、通常と比べて2倍の時間をかけて避難します。
     
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要援護者の被害を減らすことができました。この段階の要救助者の構成を見ると、情報取得前に被害に遭っている住民が多くいることがわかります。つまり、避難情報を取得できていない状態で、氾濫に巻き込まれている住民が存在します。
シナリオ5では、情報の空白世帯をなくすため、自主防災組織などを活用して災害情報の組織的な悉皆伝達が行われた場合を表現しました。住民は、避難勧告の発令から少なくとも1時間後には、情報を取得します。
     
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要救助者が100人近く減少しました。しかし、まだ避難中に被害に遭っている住民が存在しています。
シナリオ6では、避難勧告の発令タイミングを1時間早めた場合のシミュレーションです。
   
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このシナリオでは、堤防が決壊する時点において全ての住民が避難を終えており、要救助者の数はゼロとなりました。しかし、避難勧告の発令を早めることは、洪水の危険性の少ない段階で避難情報を伝達することとなり、情報の空振りの危険性を高めます。行政がこのような対応を行うためには、地域住民と協議を行い、事前に十分な住民理解を得ておく必要があります。
最後のシミュレーションでは、要救助者がゼロとなったシナリオ6の状態で、住民が意向調査どおりに自動車を利用した場合のシミュレーションを実施しました。
     
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自動車を利用した場合、渋滞の発生により避難中の要救助者が増加し、その数は現状の意識をそのまま再現したシナリオ(No.0)と同程度となってしまいました。
洪水犠牲者をゼロにするための条件
以上のシミュレーション結果から、洪水による犠牲者をゼロとするためには、次のような条件があることがわかります。
・避難率の向上
・適切な避難先の選択
・早い段階における避難行動の開始
・災害時要援護者への避難支援
・組織的な情報伝達による情報空白世帯の低減
・車による避難の危険性の認識
・早い段階での避難勧告発令と住民理解
住民向け地域防災啓発ツールの作成

2)に示したシミュレーション結果を、広く地域住民に普及啓発するため、さまざまなツールを開発し、市役所や各行政区などに提供しました。

               
加須市北川辺地域
洪水防災DVD(リンクなし)
利根川・渡良瀬川合流付近
動く洪水ハザードマップ(リンクなし)
利根川・渡良瀬川合流付近
こども版動く洪水ハザードマップ
(リンクなし)
加須市北川辺地域・板倉町
こうずいあんぜんクイズ

北川辺地域の小学校では、これらの普及啓発ツールを活用し、洪水防災に関する学習を実践しています。

洪水防災に関する授業のようす