(本研究室で独自に開発したシミュレーションシステムの概要や活用事例について紹介します)
本シミュレータの概要について紹介します
開発目的
災害による人的被害の発生は、災害の発生規模や防災施設の整備状況に加えて、住民の避難状況により非常に大きな差が生じます。したがって、地域の防災対策を検討する上では、従来のハード施設の整備に加えて、的確な災害情報の伝達や避難誘導、そして平時からの防災教育の実施により迅速な住民避難の実現を目指すことが重要となります。本研究は、このような問題に対応するため、各種シナリオ想定に基づいた地域住民への災害情報の伝達状況や住民の避難状況、そして、災害現象の挙動を総合的に表現する災害総合シナリオ・シミュレータを開発することによって、効果的な地域防災の戦略策定や地域住民への防災教育の実施を支援することを目的としています。
災害総合シナリオ・シミュレータの概要
本シミュレータは、災害情報の伝達状況、住民の避難状況、そして災害発生の状況を表現する各種要素技術により構成されており、災害時における一連の地域状況を総合的に表現することが可能となっています。また、本シミュレータは、ベースシステムとしてGIS(Geographic Information System)を採用しており、地域空間上に表現された避難者の分布や災害の発生状況などから人的被害や物的な経済被害を予測したり、その状況を視覚的に表現したりすることが可能です。
入力情報と出力結果
入力情報
住民情報や情報伝達、避難施設、地形情報などから、地域の状況をコンピュータ上に再現します。

・住民情報(住民構成、世帯位置)※国勢調査の結果から仮想的な世帯をジェネレートすることも可能

・情報伝達施設(防災行政無線配置、広報車ルート)

・避難施設(避難場所)

・地形(標高データ)

・その他の空間情報(道路、建物、河川、海など)

出力情報
視覚的に表現される各種指標から想定したシナリオの問題点や改善点を効率的に抽出することができます。
情報伝達状況
・情報の取得状況
・情報の取得タイミング
・情報取得回数 など
避難状況
・避難完了者
・避難所要時間
・道路ごとの避難者通過数
・避難所ごとの収容人数 など
被害状況
・被害発生箇所
・人的被害数
・被害家屋数
・経済被害額 など

地域防災計画策定の支援
地域防災計画を策定するためには、災害時に発生する状況を予測し、具体的にその対応策を検討する必要があります。災害総合シナリオ・シミュレータは、このような状況想定の実施を支援します。
地域防災計画の再考

対策の優先順位の検討:どのような対策が最も人的被害の削減に効果的か?

災害想定の見直し:想定される災害や被害は正しく把握されているか?

ハード対策施設の整備:防潮堤や防波堤はどれぐらいの効果があるのか?

情報伝達計画の改善

情報伝達タイミングの見直し:どれぐらいのタイミングで伝達を開始すれば地域住民に余裕を持って情報が伝達されるのか?

広報車巡回ルートの検討:どのようなルートが最も効率的に情報を伝達することができるのか?

屋外拡声器など、伝達施設の整備:どんな施設をどのように整備し利用すれば多くの住民に効率的に情報を伝えることができるのか?

避難誘導計画の改善

避難誘導体制の検討:援助が必要な住民はどれぐらい存在しているのか?

避難施設の整備:どの避難所にどれぐらいの避難者が集まるのか?

避難経路の検討、整備:避難が完了するまでにどれぐらいの時間がかかるのか?

防災教育の重要性
地域住民が災害時の対応を事前に検討できるかどうかは、災害時の状況を実感を持って具体的にイメージできているということが重要な条件となります。しかし、経験したことの無い災害時の状況を具体的にイメージすることはとても困難なことです。したがって、住民への防災教育では、発生する災害の規模やそのときの状況、そして効果的な対応行動を具体的にリアリティをもって示すことが重要な課題となります。
災害に対する正しい知識と理解が必要
・津波や洪水は自分の家まで到達するの?
・地震が発生してからどれぐらいの時間で自宅まで水がくるの?
・どれぐらいの高さ・速さの波がくるの?
・浸水してからでも避難することができるの?
災害時における適切な対応行動を把握しておくことが重要

・どんなときに避難を行えばいいの?

・どこに避難すればいいの?

・サイレンを聞いてからどれぐらいのタイミングで避難すればいいの?

シナリオ・シミュレータを利用した効果的な防災教育の実施
当研究室では、災害総合シナリオ・シミュレータを利用した防災教育コンテンツの作成や住民教育の実施についても取り組んでいます。
動的なハザードマップの作成と公開
シミュレーション結果は、災害の進展状況や被害の発生状況を視覚的に分かりやすく表現する教材として活用できます。インターネットなどを通じてシミュレーション結果を公開する取り組みも実施しています。
講習会や説明会などの実施
シナリオを固定しない動的なハザードマップは、講演会の教材や住民説明会の資料などとしても効果的です。学校での防災教育の教材としての活用することも検討されています。
地域防災計画策定の支援
シミュレータの活用事例集をダウンロードすることができます。本事例集には、シミュレータの概要や防災上の様々な問題に本シミュレータを適用した事例が掲載されています。
災害総合シナリオ・シミュレータ活用事例集
(PDF/5.6MB)