(本研究室で独自に開発したシミュレーションシステムの概要や活用事例について紹介します)
津波避難時の自動車利用状況の違いによる被害害者数の軽減効果を検証した事例について紹介します
検討内容
背景

津波襲来時においては、『徒歩での避難』が原則といわれています。それは、地震によって家屋が倒壊したり、道路が破損したりして、自動車での移動が困難になってしまうことが予想されるためです。また、渋滞・交通事故等により、他の避難者へ悪影響が生じることも危惧されます。

しかし、3.11東日本大震災発生時において、自動車を利用して避難した方も少なくありません。そのために、渋滞が発生したり、自動車移動に被災したりしてしまった方もいた一方で、自動車で避難したことによって助かった方もいます。

目的
ここでは、津波襲来時に自動車を利用した避難を行う住民の割合の違いが、犠牲者の多寡にどのような影響を与えるのかを、シミュレーションを用いて検証した結果を紹介します。
対象地域
ここでは、地理的特性の異なる以下の2つの地域を対象に検証をおこないました。
三重県尾鷲市

・リアス式海岸地形の湾奥に位置し、山地に囲まれた地形

・沿岸部から最寄りの避難所まで直線で500m

米国ワシントン州LongBearch

・南北約40kmの半島で、平坦な土地

・南部の市街から最寄りの避難場所まで直線で約3km

検討結果
以下に、尾鷲市とLongBearchという地理的特性の異なる2つの地域における津波襲来時の自動車利用と犠牲者数の関係について検証した結果を示します。なお、ここで示した結果は、あくまでも“この2地域の様子を再現した場合に確認された結果”であって、どこの地域でも同様の結果となり得るわけではないことに注意してください。この結果に基づいて、全国一律の津波襲来時の自動車利用率を議論することがしないでください。
地震発生5分後に避難を開始した場合の自動車利用率と犠牲者数の推移
まず、住民の避難を開始するきっかけと避難開始タイミングを、「地震の揺れを感じたら5分後に避難開始」と固定し、そのもとで、避難時の自動車利用率を0%から100%まで変動させて、犠牲者数の多寡を検証しました。
三重県尾鷲市

・自動車利用率が0%〜15%では、被災者は発生していませんが、20%以上になると、自動車利用率の増加に伴い、犠牲者数が増大してしまうことが確認されました。

       
自動車利用率:15%自動車利用率:50%
     
自動車利用率:75%
米国ワシントン州LongBearch

・避難時に自動車を利用することで、犠牲者数は減少傾向にあることが確認されました。

・しかし、自動車利用率が70%を超えると、犠牲者数は微増傾向にあることも確認されました。

           
自動車利用率:15%自動車利用率:50%自動車利用率:75%
避難開始タイミングを考慮した自動車利用率と犠牲者数の推移

次に、住民の避難開始タイミングと自動車利用率が、犠牲者の多寡に与える影響について検証しました。
ここで検証対象とした避難開始タイミングは、以下の3シナリオです。

・情報を取得したら、すぐに避難を開始

・情報を取得して、5分後に避難を開始

・情報を取得して、10分後に避難を開始

三重県尾鷲市
米国ワシントン州LongBearch
まとめ

検証の結果を以下にまとめます。

まず、尾鷲市のように、避難場所まで比較的早く到達することのできる地域においては、津波避難時の自動車利用が犠牲者の増大に繋がってしまうため、「津波襲来危険時の自動車利用は原則禁止」の徹底を図るとともに、渋滞等の負の影響が生じない範囲内で、緊急車両や要援護者の避難支援等に自動車利用枠を有効活用する方策が考えられる。

また、LongBeachのように、避難場所までの距離が遠い地域においては、自動車利用が有効だが、避難誘導・渋滞対策や駐車場の容量を検討する必要がある。

計算条件
このシミュレーションは、以下の条件で計算を行っています。
                                                                                                                 
尾鷲市LongBearch
基礎データ住民7,974世帯/15,520人4,284世帯/9,027人
建物12,922棟14,036棟
避難場所26箇所(標高30m以上の高台各所)13箇所
屋外拡声器42基28基
広報車3台4台
避難所の駐車キャパシティ【指定避難場所】 各所30台(計780台)
【高台】 制限なし
13箇所 計88,530台
避難行動避難先居住地から最も近い避難先居住地から最も近い避難先
避難手段徒歩、または自動車徒歩、または自動車
情報伝達屋外拡声器基本音声範囲250m、聴取率30%音声範囲750m、聴取率30%
タイミング地震発生3分後地震発生5分後(5分おきに20回)
広報車基本音声範囲100m、聴取率40%音声範囲250m、聴取率30%
タイミング地震発生3分後地震発生5分後
マスメディア基本聴取率60%聴取率60%
タイミング地震発生1分後地震発生10分後(10分おきに10回)
住民間電話の利用利用不可利用不可
津波発生規模中央防災会議想定
東南海・南海連動型(堤防が機能しない場合)
※20分で約6mの津波が襲来
NOAA想定
Cascadia Subduction Zone Mw9.1 Earthquake
※35分で約8mの津波が襲来