(ダム下流域の危機管理シミュレータの概要や活用事例について紹介します)
本モデルの概要やシステム運用例について紹介します
シミュレーションシステムの概要

本システムは、洪水時におけるダムや下流域を対象とした総合的なシミュレーションシステムです。本システムを活用することによって、任意の洪水シナリオに対応するための効率的なダム運用や下流域の危機管理を検討することができます。また、住民を対象としたダムに関するリスク・コミュニケーションツールとしても活用できます。

シミュレーションシステムの目的と背景
本システムは、「洪水時における効率的ダム運用と下流域の危機管理の検討」、「住民を対象としたダムに関するリスク・コミュニケーション」を支援することを目的としています。
洪水時における効率的ダム運用と下流域の危機管理の検討支援

近年の地球の温暖化による気候変動により、日本各地において集中豪雨の頻発化、大規模化の傾向がみられます。これらの影響により、ダムの運用においては既往最大を上回る大規模洪水の発生やただし書き操作が必要となる異常洪水の発生、そして下流域における洪水被害の発生などの事態が想定されます。このような中、ダム管理者や下流自治体においては、大規模洪水時やただし書き操作の実施時においても人的被害を発生させないための効率的なダム運用や効果的な防災計画の策定が求められています。

本システムは、洪水時を想定した任意のシナリオに基づきダムや下流域の状況を総合的に表現するシミュレーション技術を利用して、洪水時における適切なダムの運用や下流域の防災計画の検討を支援します。

住民を対象としたダムに関するリスク・コミュニケーション支援

洪水時において適切なダム運用や下流域に対する警報の伝達が行われたとしても、下流域の住民によって避難行動などの適切な対応行動が行われない場合は、被害が生じてしまうことなります。地域住民が適切な対応行動を実施するためには、ダムの運用や洪水調節機能に関する正しい知識を持つことが重要となります。したがって、ダム下流域において洪水による人的被害を発生させないためには、地域住民とのリンク・コミュニケーションなどを通じて、ダムに関する適切な知識や理解を啓発していくことが求められます。

本システムは、シミュレーションによる計算結果をわかりやすく表現することによって、専門的な知識を持たない住民を対象として洪水時におけるダムの役割や運用方法など、ダムの洪水調節機能に対する理解増進を支援します。

シミュレーションシステムの構成

本シミュレーションシステムは、「降雨のダムへの流出やダムによる貯水と放流」、「河川の水位と流量変化と洪水氾濫」、「災害情報の伝達やそれに基づく住民避難」をそれぞれ2つのシミュレーションモデルによって表現します。そして、これらの状況から洪水被害の発生状況を表現するモデルを加えた7つシミュレーションモデルで構成されています。

シミュレーションシステムの構成と入出力情報
流出モデル

設定された降雨波形に基づき、ダムや河川に降雨が流出する状況を表現します。表現手法としては、貯留関数法を用います。

ダムモデル

ダムの運用規定などに基づき「制限水位から水位が上昇する中で一定率放流から一定量放流に移行する」「ただし書き操作を開始する」といったダムによる洪水調節の状況をゲート操作のレベルで表現し、ダムから下流河川に放流される流量を計算します。

河川モデル

ダムからの放流や降雨の流出量に基づき、ダム下流河川の任意の箇所における水位や流量の状況を表現します。計算手法としては、一次元の不定流計算を用います。

氾濫モデル

二次元不定流計算により、河川水位と堤内地の水位から計算された破堤流量が堤内地に時々刻々と広がる様子を表現します。住民の避難行動と合わせて評価するため、計算メッシュは10m程度の詳細なものを利用します。

情報伝達モデル

放流に基づく警報や自治体からの避難勧告などの災害情報がダムの警報伝達施設や防災行政無線、広報車などを通じて住民に伝達される状況を表現します。また、住民間の口頭による伝達活動によってこれらの災害情報が地域に拡まる様子を表現します。

住民避難モデル

災害情報を得た住民が避難施設などに向けて避難する様子を表現します。避難行動の表現には、避難者の属性や浸水に応じた避難速度の低下などを考慮します。なお、避難施設の配置や避難経路については任意に設定できます。

被害発生モデル

氾濫と避難者や家屋の分布から、人的・物的被害の発生状況を計算します。ここでは氾濫流の流体力に基づく歩行困難度や家屋被害の発生を判定するモデルを用います。

計算結果例
シミュレーション結果のわかりやすい表現

専門的な知識を持たない人に対してダムによる洪水調節機能や洪水時の適切な対応行動を説明するためには、降雨やダム操作に応じて河川がどのように変化するのか、また対応行動によって被害がどう変化するのかなどをわかりやすく説明する必要があります。このためには、シミュレーション結果を数値やグラフによって示すだけでなく、時間経過ごとの結果を実際のダムや河川のイメージを用いたアニメーションとして表現するなど、視覚的な表現手法を用いることが有効です。本システムでは、シミュレーションによる計算条件や計算結果をアニメーションとして表示することが可能です。

アニメーションによる表現項目
 
モデル 表現項目
流出モデル 時間雨量、総雨量、流出量
ダムモデル 貯水位、貯水率、放流量、ゲート開度
河川モデル 断面別水位、断面別流量、断面別水深、堤防高
氾濫モデル 氾濫域、浸水深
情報伝達モデル 情報取得者分布、情報取得率、情報取得者数
住民避難モデル 避難者分布、避難準備者数、避難途上者数、避難完了者数
被害発生モデル 要救助者数、浸水建物数
ダム・河川情報の表示イメージ
検討対象地域の表示イメージ
計算結果グラフの表示イメージ
シミュレーションシステムの活用場面

本システムは、洪水時におけるダム運用の検討を始めとして、下流域の防災計画の検討や住民とのリスク・コミュニケーションなどダムに関連した危機管理に関する多くの場面において活用することができます。

洪水時における効率的なダム運用の検討(ダム管理者向け)

・大規模洪水時におけるダム操作のあり方検討

・実況雨量や予測雨量を考慮したダム雨量のリアルタイム検討

・下流域への警報伝達タイミングや手段の検討

・下流自治体との連携体制の検討

ダムの影響を考慮した地域計画の高度化(下流自治体向け)

・ダムによる影響を考慮した河川整備計画の検討

・ダムによる影響を考慮した土地利用計画の検討

ダムの影響を考慮した地域防災計画の高度化(下流自治体向け)

・ダムによる影響を考慮した災害情報の伝達計画の検討

・ダムによる影響を考慮した避難計画の検討

ダムを対象としたリスク・コミュニケーションの実施(地域住民向け)

・ダムによる洪水調節機能の理解増進

・ダム放流時の適切な対応行動の理解増進

・洪水発生時における適切な対応行動の理解増進

シミュレーションシステムを利用したリスク・コミュニケーションの実施イメージ