(ハザードマップの公表効果や住民の理解特性に関する研究成果と、新たなハザードマップについて紹介します)
ハザードマップの公表効果・住民理解に関する研究

ハザードマップの公表効果については、1998年東日本豪雨災害や2000年東海豪雨災害、2000年有珠山噴火災害など、実際の災害時に利用され、住民避難の迅速化・円滑化に効果があったことや、適切な時期での避難情報の発令など、行政の防災対応に際しても役だったという報告があります。しかし、その一方で、ハザードマップは、リスク情報の表示や公表の方法によっては、住民に誤解を与える可能性があることや、時間の経過に伴い紛失してしまう住民が少なからず存在するなど、ハザードマップによる防災意識の啓発効果が十分に得られていない状況にあります。

本研究では、このような住民の災害意識や避難行動に対するハザードマップの公表効果・問題点を明らかにし、今後のハザードマップの作成のあり方を検討・提示することを目的としています。

洪水ハザードマップの公表効果

洪水ハザードマップの公表効果が初めて確認されたのは、1998年東日本豪雨災害の福島県郡山市での水害のときです。災害後に我々が実施した調査では、次のような効果が明らかとなりました。

洪水ハザードマップを見た住民の避難率は、見ていなかった住民と比較して最大で約10%高かった。
洪水ハザードマップを見た住民は、見ていなかった住民よりも避難の開始が約1時間早かった。
行政においては、洪水ハザードマップの作成過程で避難勧告・指示の発令基準等を明確にしていたことから
実際の災害時では適切なタイミングで発令できた。
洪水ハザードマップの問題点

行政が洪水ハザードマップを公表したとしても、それが住民に認知され、かつ洪水ハザードマップに表示される浸水リスク等の情報が適切に理解されているとはいえない状況にあります。洪水ハザードマップの住民理解・受容に関しては、主に次のような問題点が挙げられます。

災害情報取得態度が未成熟

そもそも洪水ハザードマップに関心がなく、その重要性を認識していないため、時間の経過に伴いなくしてしまう住民が少なくない。

災害イメージの固定化

洪水ハザードマップに示される予想浸水深は、ある条件に基づく一つの氾濫シミュレーションの結果にすぎず、将来にわたって洪水氾濫がそのシミュレーション結果の範囲にとどまるという保証はない。しかし、住民が洪水ハザードマップから自宅の予想浸水深を読み取ると、それがその人の予想する浸水深の最大値を規定してしまうのである。特に、浅い浸水深、もしくは浸水しないことを読み取った住民は、その情報に安心感をもち、洪水災害時において避難の意向を示さなくなってしまうおそれがある。

前提条件の欠落

洪水ハザードマップで、色が塗られていない地域(予想浸水深がゼロの地域)には、与えられたシナリオに基づく洪水氾濫シミュレーションにおいて、その解析の対象外となり結果として浸水が生じないと判定された領域がある。このような氾濫解析の対象外となった流域では、洪水ハザードマップで予想浸水深は示されず、それをみた流域住民が「ここは洪水に対して安全な地域」として受け止めてしまうことがある。

表現能力の限界による誤解

勾配が急な地域の場合、氾濫流の流速は大きく、一方で浸水深は浅くなる傾向にある。しかし、洪水ハザードマップでは浸水深のみが示される場合が多いため、たとえ流速が早い場合でも、住民はそれについては考慮せず、洪水ハザードマップに示される浅い浸水深のみに着目し、それによって安心感をもつ傾向がある。

参考文献